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2017.04.09article
アメリカの中のアイルランド
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アイルランドはかつて各地に多くの移民を送り出していました。その中でもアイルランドよりアイリッシュが多いと言われるアメリカ合衆国に関するSamonさんのお話です。

アイルランドはかつて各地に多くの移民を送り出していました。その中でもアイルランドよりアイリッシュが多いと言われるアメリカ合衆国に関するSamonさんのお話です。


アメリカの中のアイルランド

 

アイルランドはまだ多くの日本人にはあまり知られていない国だとよく感じます。アイスランドと混同したり、イギリスの一部だと思っている人は多いようです。知っている人にとってもヨーロッパの外れの遥か彼方にある国という印象だと思います

ところ変わってアメリカに行くと、アイルランドはとても身近な国です。アイルランドへは東海岸から大西洋を挟んで飛行機なら7時間ほどで行ける、ヨーロッパの中でも近い国です。英語が使えることもあって、ビジネスの世界でも交流が深いです。「私はアイルランド系だ」という人は多く、セント・パトリックス・デイとなると全米各地でパレードが行われ、突然その日だけアメリカのアイリッシュの人口が増えます(笑)。地理的にも精神的にも、とても身近な存在であるようです。

アイルランド系移民
アイルランドは現在人口4百万人ほどの国ですが、かつては8百万人の人口がいました。ところが1840年代にジャガイモ飢饉(Potato Famine)が起こり、百万人が飢えや病気で死に、2百万人が北米へ生きるために移民して行きました。その後もアイルランドから成功を夢見てアメリカへの移民は続きます。映画「ギャング・オブ・ニューヨーク」(2001年)では到着直後のアイリッシュが、「タイタニック」(1997年)では三等船室に1912年希望を求めてアメリカに渡っていったであろうアイリッシュなどが描かれていました。また、「アンジェラの灰」(1999)でも1930年代の貧困の様子などが描かれています。

東海岸のマサチューセッツ州、特にボストンはアイリッシュの町として有名で、飢饉の移民の内10万人がボストンに行きました。現在はマサチューセッツ州の人口の4分の1弱が自称アイルランド系です。ちなみにニューヨークは 12%ほど。比率ではなく人数としてアイルランド系が一番多いのはカリフォルニア州です。

全米に4,000万人いるといわれるアイルランド系アメリカ人。定年を迎えた人たちがファミリーツリーをたどって自身のルーツを探る旅行をするなど、毎年多くのアメリカ人がアイルランドを訪れます。ちなみに、英語に自信があればアイルランドの観光ガイドブックはアメリカの本を使うと便利です。需要の関係からか、種類も多くとても詳しいです。

アメリカ文化への影響
そういったアイルランド移民の影響はアメリカ文化の中にも色濃く現れています。アイルランド移民が持ち込んだアイルランド民謡は他の移民の音楽と交わることによってカントリー&ウエスタンという音楽へと発展していきました。フィドルの使い方などがそういったルーツを感じさせます。また、足だけを使うアイリッシュダンスがアメリカに渡り、アフリカ系アメリカ人のダンスと融合することによってタップダンスとして独自のスタイルを確立して行きました。もしアイリッシュダンスが無かったら、フレッド・アステアやジーン・ケリーの華麗なダンスが見られなかったかも知れないところでした。

警察官と消防士
このようにアメリカ社会で重要な構成要員となったアイルランド系住民ですが、移民当初はそれほど歓迎されたわけではありませんでした。昔、アメリカでは警察官と消防士はアイルランド人が多くいました。これは真面目で誠実な性格がそういった職業に向いていたと言われますが、他にも理由はあったようです。アイルランド人がアメリカに移民していった当初、新教徒の国アメリカに後からやってきたカトリック教徒であるアイルランド人は、イタリア人移民同様、大変な差別を受けました。危険で皆がやりたがらない職業につくしかなかったという事実も、もう一つの理由のようです。もちろん今では誇りある仕事として尊敬を込めてアイリッシュが多い仕事として語られています。

ところで消防士を描いた映画「バックドラフト」(1991年)はアイルランド系の兄弟の設定。舞台のシカゴもアイルランド系が多いところとして知られていますが、冒頭でセント・パトリックス・デイのパレードが出てくるのは、そういったアイルランドとの関係を意識したものですね。更に蛇足ですが、映画「ロボコップ」(1987年)で未来の警察官である主人公の名前が、アイリッシュを思わせるマーフィーなのは可笑しかったです。

セント・パトリックス・デイ
アイルランド人にとって特別な日であるセント・パトリックス・デイは、パレードという形でお祝いをするようになったのはアメリカ、ニューヨークが発祥です。アメリカに渡ったアイルランド人が故郷を偲んで 3月17日に行ったパレードが、ハロウィーン同様、アイルランドに逆輸入されたわけです。今日、ニューヨークでは15万人がパレードをする世界で一番大きなセント・パトリックス・デイ・パレードとなりました。アメリカでこの日に関係深い料理としてのコーンビーフ(Corned beef)は、アメリカに渡ったアイリッシュがアイリッシュベーコンの代わりに食べたのが広まりました。ビールにフードカラーを入れてグリーンのビールにして飲むというのは今のところ逆輸入はされていないようです。

ケネディー大統領
アメリカで最も有名なアイルランド系アメリカ人と言えば故ジョン F. ケネディー大統領でしょう。ジャガイモ飢饉のときのアイルランド移民のひ孫にあたり、マサチューセッツ出身のケネディー大統領はアメリカでは歴代の大統領の中でもとても人気のある大統領です。しかしニクソンとのテレビ討論で有名な選挙戦の際は、カトリックということが大きな懸念材料だったようです。プロテスタントが作った国アメリカにおいて、ケネディーは歴代大統領では初めてのカトリック教徒で、当初はバチカンとホワイトハウスにトンネルが出来るのではないかと心配する者がいたぐらいでした。それが今では50セント・コインの肖像画となっているほどの人気です。ちなみにケネディーが大統領選に出馬した際は、ボストンの票の75%が彼に投じられました。

アイリッシュのイメージ
アメリカのTVでアイコン的存在の番組、スタートレック・シリーズではアイリッシュを強調したキャラクターが出てくるときがありますが、ロバと茅葺屋根の家に住んでいるといった100年前に時間が止まったような印象のキャラクター達ばかりです。アイルランドのそういった時代が郷愁を誘うのかも知れません。アイリッシュは、男は陽気な酒飲み、女性は赤毛で気が強い、というイメージがアメリカではあるようですが、このイメージは自らアイルランド系ということを誇りにしていた巨匠ジョン・フォード監督の映画「静かなる男」(1952年)を見れば分かり易いです。というよりもジョン・フォード監督が広めたと言った方が良いかも知れません。

最後に。イラク戦争で地理的理由からアイルランド西海岸のシャノン空港が米軍機の給油地となっています。2004年の6月にブッシュ大統領がアイルランドを訪問する事をきっかけに、アイルランドで大きな反対デモが起きました。今まで中立だったアイルランドですが、このデモの様子はアメリカではトップニュースとして取り上げられていたようです。小国ながら心の故郷とも言えるアイルランドの人たちの、アメリカに対するイメージは結構気になるのかも知れません。

[2005年3月 Samon]

 

[追記]2015年アイルランド・イギリス・カナダ合作映画「Brooklyn ブルックリン」も1950年代にアイルランドからアメリカに移民でやってきた少女の姿を描いた作品です。
 

予告編

英語 English Trailer

 

RTÉ http://www.rte.ie
RTÉ Libraries and Archives http://www.rte.ie/archives/
The NYCtourist.com http://www.nyctourist.com
BostonUSA http://www.bostonusa.com

INJ Link INJ – アメリカ大統領とアイルランド系移民
INJ Link INJ – タイタニック号と20世紀初頭のアイルランド
INJ Link INJ – ケルティック・フェスティバル in シカゴ
INJ Link INJ – ハリウッドで活躍のアイリッシュ・アクター
 

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