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2017.05.16article
「ライアンの娘」とディングル
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映画「ライアンの娘」の感想とその舞台として有名なアイルランド南西の端、ディングル半島のお話です。映画の内容にはあまり触れないように書いてあります。

「ライアンの娘」とディングル

[by Samon, 2005年5月]

2005年4月24日、映画「ライアンの娘」( Ryan’s Daughter 1970年) でアカデミー助演男優賞を受賞したジョン・ミルズがこの世を去りました。97歳だったそうです。そこで、名優を惜しみながら、ちょっとこの映画について書いてみました。

Three Sisters

 

「ライアンの娘」は、「旅情」(1955) 「戦場にかける橋」(1957)「アラビアのロレンス」(1962)「ドクトル・ジバゴ」(1965)などの名作を残した英映画界の巨匠デヴィット・リーン監督の作品です。映画は1916年ごろの、都市部でイギリスからの独立運動の気運が高まる中のアイルランド西部の寒村を舞台に、地元の女性と”駐留”イギリス軍将校との不倫にドイツからの武器密輸などをサブ・プロットに交えながら愛とは、夫婦とはといったテーマを描いて行きます。映画が製作された1970年前後は北アイルランド紛争が危機的状態の頃で、そういった時にこの映画が作られたことを考えると興味深いです。

映画ではアイルランド西部の美しい景色が多く使われていますが、モハーの断崖でサラ・マイルズ演じる主人公のローズが日傘を崖下に落とすところから始まり、次はディングルの浜辺といった具合に、舞台はアイルランド西部の架空の村になっています。作品の中では雨が降ったと思ったら止んだりと、アイルランドという舞台の特徴を表現するのに効果的に利用されています。村や兵舎のセットはディングルに作られて撮影されました。ディングル半島は美しい景色がコンパクトに凝縮されたような、リング・オブ・ケリー(ケリー周遊路)のダイナミックな美しさとは違った独特な美しさがあります。小さな港町のディングルが半島の先から4分の1ほどのところにあり、B&Bが多くあります。アイルランド語が話されるゲールタクトの地域でもあり、店のサインなどもアイルランド語で書かれていたりします。

「ライアンの娘」でデヴィッド・リーン監督は得意の歴史に翻弄されるキャラクター達の内面の葛藤を繊細に表現し、「アラビアのロレンス」や「戦場にかける橋」のように、対峙するそれぞれのキャラクターをバランスよく描いてゆきます。少女の成長ストーリーとしてはあまりに過酷な話のなかで、トレバー・ハワード演じる神父が画面に出てくると、人間臭く父親のような存在で安心させてくれます。イギリス映画界の俳優で多くが占められた映画の中で、米国のスター俳優であるロバート・ミッチャムがメインキャラクターの一人として好演しています。ジョン・ミルズ演じる知的障害を持つ男、マイケルは要所でストーリー展開のきっかけを作る役割をし、道化的な役ながら、言わば運命のいたずらをする天使や妖精の存在にも見えてきます。

この「ライアンの娘」で何といっても圧巻は絵画のようにスクリーンに映し出されるアイルランドの自然です。まさにアカデミー撮影賞を受賞したことを納得させられるシーンの数々です。天気が変わりやすい西部の撮影は大変だっただろうと想像できます。デヴィット・リーンは「アラビアのロレンス」で砂漠を人間を圧倒する美しく残酷な存在として描いたように、アイルランド西部の海や山、砂浜や森を美しく、時に荒々しく描き、神々しい自然の中で物語を展開することで哀しいストーリーを際立たせています。監督は、アイルランドの西部という信仰と自然が共に近代文明に侵されていない場所を舞台に、神、教会、罪、罰、贖い、愛といったものを作品の中で静かにシンボライズさせようとした、と思うのは穿ち過ぎでしょうか。

映画の中では砂浜が印象的に使われていますが、撮影にも使われたインチの浜辺は、実物も息を呑む美しさです。日本のガイドブックなどではほとんど紹介されていませんが、ディングル半島とリング・オブ・ケリーの間のディングル湾にあり、車で見つけたときは一目で映画に出てきたあの浜辺だと分かりました。はるか彼方まで続く遠浅の浜辺をゆっくりと平らな波が表面をすべり、まさに映画のままでした。デヴィッド・リーン監督が「ここだ!」と言ったのが聞こえるようでした。

インチ海岸
(黒点は人影)

 

「ライアンの娘」は「アラビアのロレンス」や「ドクトル・ジバゴ」のようなスケールの大きさはありませんが、女性の性や内面を描いている点で最後の作品「インドへの道」ともつながる美しい作品です。また、ディングル半島やカウンティー・ケリーは今でも1969年撮影当時の姿を残す美しいところです。映画を見てからディングルを訪れてみてください。感動が倍増すること間違いなしです。

ディングル半島の先端、スレア岬にある Coumeenoole の浜の上の丘には「ライアンの娘」撮影の記念碑があります。
ここには嵐のシーンの坂道などそのまま残っています。
“Ryan’s Daughter Commemorative Stone – 1969”

 

ロケ地、登場場所

<Dingle, Co. Kerry>
Coumeenoole Strand
Slea Head
Minard Castle
The Blasket Islands – the ‘sleeping giant’
Inch Strand
Carhoo, Dunquin
<Co. Kerry>
Barrow Strand, Tralee
Ring of Kerry<Co. Clare>
Cliffs of Moher
Bridges of Ross

 

参考文献:世界の映画ロケ地大辞典 / トニー・リーヴス著 齋藤敦子監訳 晶文社
アイルランド政府観光庁: www.ireland.com
Dingle Peninsula Tourism: http://www.dingle-peninsula.ie
David Lean Website: http://old.bfi.org.uk/lean/
Ryan’s Daughter: David Lean Website のページ
DavidLean.com: http://www.davidlean.com

INJ Link シャムロックに夢をのせて~愛蘭土紀行 (1) コークからディングルヘ

ライアンの娘 特別版   アラビアのロレンス 完全版   ドクトル・ジバゴ 特別版   デーヴィッド・リーンを感動する―文芸映画の巨匠 (スクリーン・デラックス)
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